空転する運命の歯車



 とさ、と。夜の中、小さな音が思いがけなく響く。綱吉の背を見送っていた雲雀が音の方へと視線を巡らせれば、起き上がっていた少女の肉体が再び地面に横倒しに倒れている。
「ちょっと、そこで寝ないでくれる。その肉体の手当ても僕の仕事の内なんだから」
 不機嫌に眉を寄せて、立ったままの雲雀は助け起こす素振りすらなくそう言う。
 それに、少女はくふりと、面白げに笑声を上げて。
「―――何が可笑しいの」
「いえ、別に?―――それよりこの弾、着弾後破裂する上、薬まで仕込んであったみたいなんですが」
 止血できないんですが、ボンゴレの医療班はまだですかね。
 言葉の中身とは裏腹の、そのふてぶてしくさえある物言い。それに面白くもなさそうに一瞥を与えた雲雀は、さあね、とだけ告げて肩を竦めて見せる。
「雲雀恭弥」
 呼び掛けに、闇の中ぴくりとその形良い眉が跳ね上がる。
「彼はいつ、思い出したのでしょうね?」
 忘れたはずの、消し去ったはずの、僕のことを、と。
 遠く見つめてどこか歌うように滑らかに嘯く骸に。
「気付いてるんでしょ」
 趣味が悪い、と。
 骸を見ることもしないまま吐き捨てるように言った怜悧な美貌の青年に、あまやかな少女はクフ、とどこか楽しむような諦めたような、倦んだ笑みを浮かべて。
 いつ、だなんて。
 忘れていない者にはありえない、そのひどく無意味な問い。
 忘れたいと望んでそのふりをしていただけの、少年。
「何だかもう、どうでも良くなってきましたねー…」
 何もかも、と。
 壊れたように小さく笑い続けながら、心にもない調子で少女の声が続けるのに、闇の中、切れ長の漆黒の瞳がちらりと一度、流されて。
「…好奇心が猫をも殺した典型だよね、君」
 謎掛けのような、らしくもないその台詞。
 低く冷ややかに言い切られた言葉に、一度少女は大きな瞳を瞬かせて。
「残念ながら、まだ生きていますが」
 至言だ、と尚も笑い声を零し続ける。
 横向けに地面に寝転んだまま一人嗤い続ける少女の姿を気味悪げに見やっていた雲雀は、しばらくしてその声が治まってくると、おもむろに口調を改めて、口を開く。
 それはふと、思いついたこと。今まで思いもしなかったことが、不意に最近、頭を掠めて。
 きっかけは多分、イタリアへ向かう飛行機の中。
 できすぎた偶然は、見たままの偶然なのか、誰かの引きの強さの招いた必然なのか。
 それとも、第三者の意志を含んだ故意、なのか。
「ねぇ。僕に夢を見せたのは、君?」
 探るような問いの言葉に。
 少女はただ、ひそりと笑む。
 弧を描くその唇からは肯定も、そして否定も、紡がれることはなくて。




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