どこから間違えてしまったんだろうね
もう一眠りしようとハンモックに横になって恐らくは三十分も経たない頃。突然に騒がしくなった階下の様子に、リボーンは意識を現実に引き戻され顔の上に被せてあった帽子をどかす。
耳を澄ませば奈々の高い声やランボやイーピンの涙を含んだような叫び声、それから途切れ途切れに聞こえるのは、記憶違いでなければ獄寺と山本の声。代われ!だの静かにしろよーだのと細切れに聞こえてくる声が、どたどたと階段を昇る音に混じりながら徐々にリボーンのいる場所、綱吉の部屋に近付いてきて。
「リボーンさんっ!!」
ばたん!と。
ノックもなしに勢いよく開かれた扉の外、苛立ちと焦りに塗り固められた声でリボーンを呼んだのは獄寺で。
その後ろ、困ったような、けれど張り詰めた表情を隠しきれずに立つ山本の背には、眠っているようにしか見えない、穏やかに目を伏せて身体を弛緩させている綱吉の姿。
とりあえず山本の背から綱吉を下ろしてベッドに寝かせ、奈々の元に心配しないように報告に行かせて。そして部屋に残した獄寺に、事の次第を話させる。
朝に別れたあの後、そのまま雲雀が高校へと向かったらしいと聞いた時にはさすがに呆れもしたが、話が進むにつれリボーンの瞳は段々と剣呑な光を帯びていき。
「…そんで、ヒバリはどーした」
「それが、十代目をオレらに押し付けるととっととどっか行っちまいまして…。何か、高校出る時は正門にボーっと一人で突っ立ってたんスけど」
全く、ヤな野郎です、と。
忌々しそうに吐き捨てる獄寺とは対照的に、その声を聞く赤子の瞳は思案げで。
「……ほー。一人で、な……」
相槌を打ちながらも、読みとも勘とも言える部分でそれは違うだろう、とリボーンは冷静に結論を下す。もともと無駄を嫌うあの青年が、そんな無意味なことをするわけがないのだ。
ならば答えは一つ。
雲雀は一人で立っていたわけではないだろう。恐らく綱吉を待っていたはずの、髑髏が近くにいたはずだ。それを獄寺たちが見なかったというのなら、それは恐らく、幻覚によって隠されていたから、で。
「リボーンさん?」
「いや…。ところで獄寺、お前、ツナにイタリア行きの話をしたか?」
獄寺の疑問の声を曖昧に濁したリボーンは、唐突に、そう話を切り替える。
「……してない、ッス」
一瞬答えたくないように表情を歪めた獄寺だったが、けれどすぐに繕った表情で面を固め、難しげにその整った眉を寄せる。
その表情の変化に、おや、と思うリボーンの視線に気付けるほどの余裕はなかったようだが。
「ない…と、思います、けど。…え、もしかして、やっぱり、リボーンさんもお話しされてないんですか…?」
「当たり前だろーが。何でこのオレが、ダメツナ如きに懇切丁寧に教えてやらなきゃいけねーんだ」
そもそも決めたのは、コイツだ、と。
告げられたリボーンの言葉が孕む意図に高くなりかけた驚きの声は、けれど眠る綱吉を気遣ってか大分抑えられる。その言葉と気持ち良さげに眠る綱吉の顔に、ふん、と面白くもなさげに鼻から息を吐き出したリボーンは、
「その感じだと、山本の奴も言うわけね―だろーな。…これで、決まり、か」
リボーンの言葉に、どこか複雑な色を隠しきれないまま神妙に頷きながらも、その端正な異国の血の濃い顔がどこか不満げなのは気のせいではないだろう。獄寺の綱吉への思慕は、出会いの頃から勝りこそすれ劣っていることはまずない。
「そんなに不満なら、止めてもいーぞ?」
むしろ大歓迎だ。
ひどく素直な獄寺の表情に、揶揄するようなリボーンの台詞。
それに、緩やかに、けれど躊躇いなく獄寺の首が降られる方向は、横。
「…しませんよ。―――けど」
言いながら、それでもまだ、不満げな獄寺に。
「別に、右腕をやめてもいーんだぞ。間違ってんのはどう考えてもソイツだしな」
「それこそ、あり得ませんよ。十代目が決めたことなら、俺はいいんです。偉大なお方ッスから。…それに、十代目はきっと、誰も見捨てないでしょう?」
その救いを、自分は確かに知っているのだ。
苦いような甘いような心地で告げる獄寺の苦笑に、どいつもこいつも、といった調子でリボーンは嘆息一つ。
「見捨てるも見捨てないも、こいつの中にはないと思うがな。まあ、どっちにしろ、時間がないのは事実だ。―――だから今日、ヒバリが動いたんだ」
告げられる、リボーンの言葉に。
「…え?」
聞き返す、獄寺の声と。
「坊主ー。おばさんの説明、とりあえず終わったぜー」
開かれたドアの向こうから、山本が入ってくるのとが、同時。
そして。
「山本」
「おう?」
入って早々、底の冷えた高い声に呼ばれた名に、けれどどこか暢気そうな山本の返事。明るいようなその表情を、見定めるようにリボーンの黒々とした大きな瞳が静かに山本に向けられ。
「ちゃんと、ツナと話したな?」
「…まーな。話したぜ、ちゃんとな」
「…お前はそれで、いーんだな」
もしかしたら、ツナは全部話してねーかもしれねーんだぞ?
脅すような、試すような、性質の悪いリボーンの台詞に、けれど山本は苦笑一つ浮かべるだけ、で。
「いいも何も。俺がそれを望んだんだ。ツナと繋がっていることを、俺が選んだんだ。―――てーかさ、」
「よくなかったのは、ツナの方、じゃね?」
苦いような笑み交じりに、山本は横たわる綱吉へと視線を流す。
山本と話している時は眉間に皺を寄せて苦渋に満ちた表情だったその顔は、今はただ穏やかに、静かで。
「…ダメツナだからな」
そもそもコイツにとって、お前はある種の聖域≠ネんだ。
はあ、と。
山本の切り返しにため息を一つ吐いたリボーンは、そこでおもむろに一枚の紙封筒を取り出す。それを見つめる獄寺と山本は、不思議そうに首を傾げて。
「何だそれ?」
「アリタリア…?航空券っスか?」
目敏く社名のロゴに気が付いた獄寺が訊ねるのに、リボーンがそーだぞ、と頷いてみせる。
「アリタリア航空。成田からイタリアへの直行便、AZ‐七七八九便と、イタリア―――ローマからパレルモへの国内線AZ‐一七九三便のチケットだ」
「日付は―――明日、十月四日」
告げる、リボーンに。
「えっ!?」
「は!?」
獄寺と山本が、同時に驚きの声を上げる。
聞いていない、どころの話ではない。
まさしく、寝耳に水。
「ちょ、リボーンさん!?」
「おいおい…。坊主、いくらなんでも明日って…」
「何を勘違いしてんだ。安心しろ。誰もテメーらのだとは言ってねーぞ。明日発つのは、ツナとヒバリだけだ」
安心しろ、といわれた直後。
続けて落とされた更なる爆弾に、対峙する二人はとうとう絶句する。
視界の端に、眠る少年。
耳に蘇るのは、秋になったイタリアへ渡ると、言っていた透明の声。
けれど、それがこんなに早いとは正直思っていなかった。
―――というよりも。
「…ツナ、んなこと言ってなかったけど?」
驚愕の余韻を残したまま、辛うじて呆然と問うて来る山本に、
「言ってねーからな」
あっさりとそんな風に返されれば、もう後を継ぐ言葉すら見出せなくて。
一時とはいえあまりに突然の言葉に茫然自失の態にある青年二人に、お前らも一週間後には一度発ってもらうがな、と追い討ちをかけるような、リボーンの高い声。
* * *
静かになった、部屋の中。響くのは規則正しい綱吉の寝息と、一際大きく吐かれたため息。
それから。
「…入っていーぞ、ヒバリ」
疲れたような、高い声。
「結構な長居だったね」
言いながら、窓から入ってくるのは今朝方別れたばかりの黒髪の青年。
それにリボーンはさも不愉快げに鼻を鳴らして。
「オレのせいじゃねーぞ。半分はテメーのせいだろーが」
「僕を待たせるなんていい度胸だよね」
君じゃなかったら咬み殺してるところだよ。
吐かれた嫌味は聞かぬふりでそう告げる雲雀に、リボーンの表情がますます不機嫌さを増す。正確には表情、ではなく纏う空気。基本的にこの愛らしい赤子の顔は、ほとんどの場合ポーカーフェイスを保ったまま変わることはないのだ、器用なことに。
「…それこそオレのせいじゃねーだろ。獄寺と山本に言え」
言いながら、つい先程まで騒いでいた青年二人を思い出す。
呆然としているだけの間はよかったが、そのうち我に返った獄寺が自分も一緒に行く、だの何故ヒバリと二人きりなのだ、などと暴れ出し。山本の方も思うことは同じなのか、歯止めにもならず援護射撃まで行い出す始末。それを、ウルセー・黙れ・決定事項だ、の三語のみで頑なに何も話そうとしないリボーンに、更に盛り上がっていく二人を、いーから帰れテメーらと叩き出したのが、多分一分も前ではないだろう。
部屋から蹴り出し階段から蹴り落としたため、やたら盛大に空気を揺るがした音がまだ耳の奥に残っているのが不快だが、とりあえず静かな、雲雀と話ができる程度の環境は調った。階下に蹴り落とした二人がどうなったかなど知らないが、あの程度で怪我をするほど柔な鍛え方はしていないしさせていない。戻ってくる気配がないのは上々だ。
思いながら目をやる先には、あの喧騒の中でも呑気に、子供の顔で眠りこけている自分の生徒。
「ったく…。オレは家庭教師であってガキのお守りじゃねーぞ」
そうであるはずだ。
まるきり子供の寝顔ですぅすぅと寝息を立てている綱吉に、無駄とは知りつつ意趣返しのつもりで鼻を抓んでやる。すると穏やかだった白い顔がほんの少しずつ険しくなって、終いには、むうぅ、と何だかよく分からない、むずがるような甘ったれた呻きを洩らして。
―――それでも、起きない。
くっ、とすぐ傍で雲雀が吹き出すような声がしたが、今のリボーンにはその珍しさすら、腹立たしい。
「ダメツナがっ」
吐き捨てて、鼻から小さな指を離す。
そしてその指で、苛立たしげに制服のシャツの、白い襟元を思い切りよく寛げて。
「―――ああ、思い切り、残ってるね」
口を開いたのは、リボーンの手元を覗き込んできた、雲雀の方が先。リボーンは辛うじて、今日何度目になるのか分からないため息でそれに応じる。
寛げ顕わにされた、細く肉付きの薄い白の首筋。
その、肩へと続くなだらかで、けれど肉のない骨っぽいラインの少し上、首の付け根の脇にもう塞がって細く瘡蓋を見せている傷痕。けれどまだしっかりと皮膚に張り付いている瘡蓋は、どす黒いような赤茶けた線を一筋、くっきりと白の首筋に刻んでいて。
「血の臭いがしなかったから、油断してたな」
何せ、最優先で確かめたのは生死だったからな、と。低く舌打ちをして吐き捨てるのは、四日前のことだろう。
四日前の、夕刻。骸が、リボーンや雲雀までも欺き得るほどの力を駆使して綱吉を訪ねてきた、あの日。それは極々短い時間ではあったけれど、護衛としてついていた二人を欺き得るほどの。
状況から見ても、傷の具合から見ても、その読みは恐らく間違いないだろう。
「鋭利な刃物の先で付けられた、って感じかな。『契約』とやらに使われるのは三叉槍なんだっけ?」
「ああ。契約じゃなくてマインドコントロールだけってのは解せねーが…。多分、『向こう』も骸に力を持たせすぎる気はねぇんだろうな。―――どっちにしろもう消えかけだ」
「でも、これで間違いなさそうだね。六道骸が、ボンゴレ十代目を消そうとしたのは」
そこにあるのが、誰の意志なのかは、ともかく。
肩を竦めて纏める雲雀に、まーな、とリボーンは苦々しく頷く。
綱吉の記憶の欠落。
それが、骸だけに限局しているのは、綱吉のドン・ボンゴレ就任を阻止するため、だろう。
綱吉が十代目を襲名するのは、骸のことが全てではないけれど、骸のことがなければ、今この時期を選んで思い切ることはきっとなかっただろうから。
「この子が次期ボンゴレ十代目のまま、けれどドン・ボンゴレの座は現在宙に浮いた状態。その影響は、小さいとはいえ日本にまで及んできている。不安定な情勢だけど、それだけに見誤りさえしなければ得をする人間だって、多い」
例えば、勢力圏を持たない、新興ファミリー。
例えば、銃器や薬のネットワークを広げたい、外国勢力。
例えば、古参のボンゴレ幹部。
―――例えば、ボンゴレのいない均衡を保つために、自然、陰ながらに勢力を伸ばす者達。
それほどに、ボンゴレファミリーという勢力は、ドン・ボンゴレの持つ権力は、大きい。肥大しすぎている、ほどに。
「けど、この子はイタリア行きを―――襲名を、未だ拒否していない。なのに」
そう。
それでも、疑問は残るのだ。
綱吉はイタリア行きを―――十代目襲名を取りやめていない。
それは、取りも直さずこの状況を望んだ『誰か』の予想の範疇外、だったはずなのだ。
次期ボンゴレ十代目は、未だ対外的には消えていない。
だというのに、なぜ綱吉が、未だ生かされているのか。
自分たちは―――リボーンと雲雀は、動いてはいない。
それならば、必ずあると予測していた、綱吉の命を奪おうと強硬手段に出るだろう者達の動きを抑えているのは、誰なのか。
そしてそれは、何のために。
「予測が、付かないわけじゃねーんだけどな」
ふと、零されるのは、囁きにもため息にも似た、言葉.
高い赤子の声が、どこか苦々しげに、証拠が全くねーんだけどな、と続けるのに、雲雀の方は問うでもなくゆるりと小首を傾げて見せ。
「分かっていても、君は―――君自身は、全く動こうとしないよね。予測は立てる。それに対する策を練って、人を使うことは、する。それでも、君自身が動くことはほとんど皆無だ。今までも、そして当然これからも」
それは何故?と。
不思議そうでもなく問う雲雀に、そういう意味じゃねーけどな、とリボーンは小さく前置いて。
「俺は、コイツの家庭教師であってボンゴレファミリーじゃねーんだ」
言いながらも、当の綱吉がそう認識しているとは思ってもいないし、本来なら放り出せばよかったはずの状況で手を出してしまう程度には、情を移している自覚はある。
そして、それを自嘲するには深入りしすぎていることも。
「越権行為だと、そう言うこと?」
リボーンの言葉に一度首を傾げた雲雀は、けれど違えることなくリボーンの意図を汲み取る。
「…俺が行動として干渉を許されているのは、ツナの生死に関わる段階から、だ。だから、護衛はできてもイタリア行きの手配や根回しはできない」
「ふぅん?」
「ツナの認識は兎も角―――俺がボンゴレに属してないってことの意味は、現実に、デカイんだよ」
群れを嫌うテメーには分かんねぇかも知れないがな。
それは、揶揄するでなく。けれどどこまでも、リボーンらしくはない言葉、だ。
そのことに気付きながらも、雲雀はそこには触れることなく、厭味にも似たリボーンの言葉にただ切れ長の瞳に涼しげな色を浮かべたまま、おもむろに口を開く。
けれどそれは、涼しげな風情とは裏腹に、多分に突っかかるような物言いであったのは否めなかったが。
「だからこそ、君にしか得ることのできない情報も出てくるってわけ?例えば、今、この状況を説明するに足りるだけの情報、とか」
「別に、そーゆーわけじゃねーんだ。それは、少し考えればテメーにも分かることだぞ、ヒバリ」
もしかしたら、獄寺だって冷静に考えれば分かるはずのことだ。
「分かんねーのは、ここまで抑えられているという事実と―――理由の方だ」
矛盾だらけで意図が読めない、と。
最後に零されるのは、、まるで愚痴のような一言。
けれどその一言ゆえに、雲雀は気付く。―――ようやくに、とも言えるだろう。
「確かにね。君の考えている通りなら―――訳が判らないにも,ほどがある。けどさ、それはこの子も同じなんじゃないの」
ふ、と。
呟く調子で零される囁き。
どこか温かな色すら帯びて聞こえる声に眸を上げれば、けれど雲雀の漆黒の瞳が映しているのはリボーンではなく、ベッドの上で健やかな寝息を立てている、少年の姿。
「…この子は、どうしたいんだろうね」
そう。
読めないのは、見えない相手の意図ばかりでなく目の前で無防備に寝顔を晒してくれている、この少年のそれだとて同じ、なのだ。
「死にたいのか、生きたいのか。死なせたいのか、生かしたいのか」
誰を、という言葉を省いた雲雀の台詞は、しかし嫌になるほど正確にリボーンへとその意味を届ける。
謡うように告げられるその言葉通り、綱吉の今の行動からはその意図するところは全くに読み取れない。綱吉と―――それから、見えない、『誰か』の意図も。
「でも、…そうだね。もしかしたら、」
くすり、と。ふいに綺麗に口の端を上げて、ほんの少し傾いだ首で、ベッドの上に横たわる子供めいた寝顔に視線を流す。けれど、どこか愛嬌を見せる仕種とは裏腹に、綱吉を映す漆黒の双眸は怖いほどに底冷えていて。
その様に、リボーンはほんのわずか訝しく視線を尖らせれば、顔は綱吉に向けたまま、雲雀の唇か、もしくは、と小さく続ける。
伸ばした指先が辿るのは、幼いままのような、薄い瞼に覆われた目元。
―――もしかしたら、そう。
「単純にそう、望んだのかもね」
忘れること、を。
続ける雲雀の言葉に、どこか苦々しく毒を孕む、リボーンの漆黒の淵のような瞳。
どうやら思い当たる節が無きにしも非ず、といったところか。
だが、どちらにしろ。
「―――もう、時間切れだけどね」
低く呟く、冷えた美声。
そう。
もう、悩んでいる時間など残されていない。
賽は投げられ、車輪は転がり出してしまった。
後はただ―――転がり続けるのみ。
それは誰にこそ向けられた言葉だったのか。
「明日の朝、また来るよ」
窓枠に手をかけて告げると、ひらりと雲雀は背を向けて。
跳び下りる。
その場に残されるのは、寡黙に瞳を伏せる赤子と、平和な寝顔でシーツに沈む少年。どこかぬるま湯が冷めたような、気付けば肌を凍えさせるような、平穏。
だから、気付かない。
今この場で、論じ忘れた『状況』があることに。
無防備に晒されたままの白の首筋に、わずかに残る引き攣れたような傷痕。
その傷が契約を施し得なかったというのなら、それでは『何をしに』色違えの双眸の青年は、少年を訪ねたのか、ということに。
―――幼い眉間に皺寄せる赤子も、音も立てずに窓から去っていった青年も、未だ気付くことは、ない。
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