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「好きです、付き合ってください!」
 並盛中学正門前。
 はっきりと聞こえたその言葉に、本日最終学年に上がったばかりの沢田綱吉は、思わず振り向く。
 下校時の中学正門前。
 つまりはそれなり以上に、人通りの多い、その場所。
 そんな場所で明らかな愛の告白をしている相手を見てやろうと思ったわけでも、ましてや自分にその言葉が向けられていると思ったわけでもない。
 何より、聞こえてきた声は男声だ。
 そう、男声。
 ―――それは、聞き覚えのある。

「………む、くろ………?」

 渇ききった喉に張り付くような綱吉の声は、おそらくほとんど空気を震わすことなどなかっただろう。
 けれど、妙に静まり返った下校時間真っ只中のその場には、妙に渇いた声音で響いて。
 振り返った薄茶色の瞳に映るのは、青みがかった黒髪を一部だけ頭頂部で結った特徴的な髪型に、左右で色の違う不可思議なオッドアイの、恐ろしく整った顔の男。
 六道骸。
 それはかれこれ半年ほどの付き合いを持った青年だ。
 たった半年、と思えぬほど思えば濃い付き合いとなりつつある、そしてそれに比例してよく知るようになってしまった相手―――、
「ああ、綱吉くん!」
 ―――だと、思う。
 正直、思いたくないけれど。
 真正面から見てしまった相手の表情に、綱吉は思わず遠い目をする。
 その現実味のない色彩も現実味のないほどシンメトリーに整った美貌もとてもよく知るものに違いなかったけれど、しかしその表情が見慣れない。
 ある意味現実味ない、といえるかもしれない。
 ほのかに上気した白い頬に、怖いほど輝いた赤と蒼の特徴的な双眸。
 いつもは皮肉な笑みに歪んでいる酷薄げな薄い唇は、今は何故かいっそ可愛らしいような笑みの形を作っていて。
 見覚えがあるような、と思って、それが半年ほど前、本当の初対面のとき彼が浮かべていた完全な猫被りの笑みと同じ類のものだと、気付く。
 気持ち悪いといえばいいのか、気色悪いといえばいいのか、何とも表現し難い心地。
 何にしろ、そこに好意的な意味など一切入らないが。
「…むく、ろ。………どうしたの?」
 聞きたくはなかったけれど、やはりそれを聞かないことには話が進まないことに思い至り、綱吉は嫌々ながらにその問いを口にする。
 周囲から突き刺さる、知らない生徒達の無言の視線の圧力に負けたともいう。(取り敢えず見た目は美形な男であるので、女子生徒の視線が痛いほどに期待に満ちているが、心底やめておけと忠告したい)
「おや、つれないですねえ、綱吉くん。貴方の六道骸ですよ!」
「な、……ナンノハナシデショウカ……?」
 クフフ!と怖いほどに明るい特徴的な笑い声。
 本当に意味が分からない。
 いつもこの男の真意など分かった例しはないが、それにしても今現在、今回の状況は、更に輪をかけている。
 骸の様子にあからさまに身体を引いた綱吉だが、すい、と何気ない風に伸ばされた相手の腕が綱吉の制服の腕を掴みにくる。
 身を捩るが、身体能力で綱吉が彼に適うはずもなく。
「…っ!」
「逃げないで下さい、綱吉くん…。きちんと答え、教えてくださいよ」
「こ、答え…?」
 何の、話だ?
 思いがけず強い力で掴まれた腕に無意識に緩く眉を寄せながら首を傾げる綱吉に、骸はお手本のような『悲愴』そのものの表情を浮かべて見せて。
「聞いてなかったんですか、綱吉くん…っ!言ったでしょう?好きです、付き合ってください、と!!」
 耳に注ぎ込まれる音が、つい先ほど聞いた言葉と非常に似ているような気がしたが、綱吉は必死で気のせいだ、これは日本語じゃないと自分の脳に言い聞かせる。
 だから、周囲から感じる呆然とした、どこか他人事めいた憐憫と痛々しさを含んだ視線も気のせいだ。
 にこにこと気持ち悪いほど上機嫌に笑う骸の顔を半分落ちかけた意識で眺めながら、綱吉はまさかね、と口の端を歪めて引き攣らせる。

 ―――まさか、愛の告白なんて。





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