どこから間違えてしまったんだろうね



「沈黙ノ掟ドコロカ神ノ訓エスラ開イタコトノナイモノニ、コノ地ノ闇ヲ統治サレルワケニハイカナイ」
 何ヨリアノ男ハ、血ヲ厭ウ。
 向かい合う相手の無表情に、青年は色違(たが)えの双眸をゆるりと微笑ませる。面白がるような、笑みであって笑みでない、その得体の知れない表情。
「それは人間として、ひどく真っ当なんじゃないですか?」
 心にもないだろうことを言いながら、何が可笑しかったのか青年はくふり、と独特の笑声を上げる。
 静かな部屋だ。
 そして、暗い。
 向き合う相手の目鼻立ちすらも、影に沈んで定かでない。
「真ッ当デハ、意味ガナイ」
「人ノ性(サガ)ハ、血ヲ求メル」
「生キルタメニ、血ヲ見ズニハイラレナイ」
「性二、逃レラレヌ本能二、背ヲ向ケテイルノハアチラノ方」
「ソンナモノニ剥キ出シノ性ノ巣窟タル、闇ヲ統治デキルトハ思エヌ」
「オ前モソウ、思ウダロウ?」

「同胞(はらから)ヨ―――」


「それは正式な取引ということですか?復讐者。だとしたら――」
 彼を厭う真実の理由を、晒して見せるべきではないのか。
 嘯くように、告げる声はどこまでもただ、艶やかなだけ。


 闇に沈んだ応答は、未だ見えない。


* * *


 微睡みの中は、ひどく心地がよかった。
 微温湯は、慣れない髑髏にはひどく温かに感じられたし、何より大好きな二人が一緒にいた。
 大好きな―――というと、少し、語弊があるかもしれない。
 多分自分にとって、彼らは唯一で、絶対だ。
 間違いなく、それは自分以上に。
「―――――」
 声を出そうとして、出せないことに気付く。
 遠く、二人の青年の姿。(一人は、少年と見えるほど幼く映るけれど)笑っているのか怒っているのかさえ、見えないほど。
 遠くて。
 ―――遠くて。


 パンっ!


「っ!?」

 鋭い破裂音。
 ビクリ、と。
 飛び起きて、身構えれば。
「よし、起きたな」
 降り注ぐ昼日中の眩しい陽光。
 眩む視界に小さな赤子のシルエットが、妙にくっきりと、鮮やかに、髑髏の目を奪って。

 そして赤子は話し出しす。



(ねえいつか、いつの日か、)
(あの人たちが現実で肩を並べられるような日かくるなら、)

 赤子の去った後。
 一度祈りのように片方だけの瞳を伏せて、それから髑髏は犬と千種に続いて外へと駆け出した。





--------------------
koyubi-top or back