ピエタ・ラクリマ ―黄昏・Ub―
「あわせてあげる」
少女はきれいに微笑んで。
「沢田綱吉、」
「…む、くろ…?」
クロームさんは?
驚いたように、涙に濡れた綱吉の瞳が目の前の相手を映す。
透明な瞳が、透明な水の膜を張って、わずかの光にも揺れてきらめくから、余計に澄んで見える。
あまやかな色味は闇に沈んだまま。
けれどその透明さは、とてもきれいに闇に映える。
「君が、望んだんでしょう」
「…ああ、うん。そ、だけど…」
「あの子が、君の望みを叶えないわけがない」
「やさしい、ね…」
くす、と。
その頼りない唇が、情けない笑みに歪む。
静かに頬を濡らし続けたまま。
少年は、震える唇で笑みを刻む。
「君は、何がしたいんですか?」
「…さ、あ?」
でも。
「オレは、お前がしたいことは、何となくわかる…」
初めて、分かるよ。
震え続ける笑みのまま、綱吉が呟く。
細い首筋を俯けて。
頬を滑り落ちていた涙が、はたはたと暗いアスファルトに染みをつくる。
見えないまま。
「ほう?」
「殺したくて、仕方ない。契約も、オレの肉体も関係なくて、オレを殺したくて、殺したくて、仕方ないんだろ?」
見えないまま、黒の染みは綱吉と骸の間の地面に広がっていく。
はた、はた、と。
耳に届かない音が、けれどなぜか感じられるから不思議。
そんなことを思いながら、綱吉はもう零れ落ちる涙を止めることを諦めたまま言葉だけを続ける。
「オレが、クロームさんを傷つけた、から、」
告げる声は、当たり前に震えて。
けれどその声は。
もう怯えの色すらない。
諦念。
「わかっているなら、どうしてやった?」
問う骸の声は、冷ややか。
硬質で、けれど深く艶帯びた声は耳に心地好いのに、どこか爬虫類の肌のようにざらりと冷たい。
その声に、綱吉はのろのろと瞳を上げ。
「わかんない…」
「答えろ」
「わかんないよ、ほんとうに…。もう、どうすればよかったのかも、わかんないんだ…」
「っ、君はっ」
激昂したように、骸の声音が熱を帯びる。
伸ばされた腕が、締め上げるように綱吉のシャツの胸元を掴み上げる。
それでも。
それでも、綱吉の瞳は、凪いだまま。
その声は、静かなまま。
「ねえ、骸」
「すき」
「オレはおまえがすき、だよ」
間近の二色が、驚いたような、それともひどく忌まわしいようなものを見るような光を、帯びて。
それをしっかりと目に焼き付けようと、瞬きで涙を払った瞳を綱吉は今日始めてしっかりと、その瞳に合わせて。
とてもとても近くに見えた、無防備に晒された唇に唇を寄せてしまいたい衝動があったけれど、首を少し前に傾ける勇気すらもてずに。
「な、」
「おまえがクロームさんをすきなように、あいするように」
「おれはおまえがすきだよ」
告白は。
そのまま、自分の恋を失う言葉。
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