ピエタ・ラクリマ ―黄昏・Ub―
はあ、と大きく息を吐く。
バスを降りて、家までの道をまるで何かに追い立てるように走り続けて。
今日は、赤ん坊の家庭教師は家にはいない。家で自分の帰りを待っているだろう母親は、夕飯の時間に遅れさえしなければ何もうるさく言うことなどない。
それなのに。
まるで、何かから逃げるように。
家の前まで走り通して、見えた門扉の前でようやく足を止める。
吐く息が、熱く、苦しい。
吸う息が、胸に痛く、目が沁みる。
ぜえぜえと、肩を上下させて門柱に肩を寄せ息を吐く内、ずるずるとアスファルトの地面にへたり込んでいく。
胸が、痛い。
泣きそうに歪む視界に、息を止めることで何とか抗しながら綱吉は荒い息を繰り返す。
胸が痛いのも。
涙が滲むのも。
本当は、その理由なんて、分かりすぎるほど分かってはいるのだけれど。
「な、さけな…っ」
切れ切れの息に。紛れ零れる言葉は、自嘲の言葉。
それは自分へと向けられたもの。
答えなど、返るはずのない、それはまるでひとり芝居。
『本当に』
返る言葉など、あるはずもない。
のに。
耳の奥、或いは脳の奥。
響く皮肉に満ちた声が、あった気がして。
「っ、………」
顔を上げる。それから、首を、瞳を巡らせて。
けれど。
待っても続きは、返るわけもない。
それは本当に、紛れないほどに、ひとり芝居の風情。
「…な、さけなすぎ。だろ、…っ」
ふ、と。
喉の奥の嗚咽が、泡がはじけるように空気に触れる。
咽奥が熱く灼けて、塩辛いような熱の塊がせり上がってくるその心地に涙より先に嗚咽が止まらない。
やっと水に歪み始める視界に、浮かぶのは最後に見た少女の顔。
驚いたような、心配げな。
やさしい感情を秘めた、かお。
やさしいひと。
やさしい言葉とこころの少女に、抱いた想い。
胸に湧いた、その感情の名、は。
「ごめん、」
「ごめん、なさ、い…っ」
呻くように絞り出す声は、誰にも届かず。
「ほんとうに、ごめ…っ」
謝り続ける声は、たださびしく冷え始めた夜の空気に冷えて凍って綱吉の肺の底に重く積み上がっていくばかりで、
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