ピエタ・ラクリマ  ―黎明・T―



 眠りの先には、あの人がいる。
 だから、眠るのは。
 今は怖くはない、嬉しいこと。
 静かな瞳と皮肉な笑み、それからやさしいような雰囲気を矛盾なく纏った少女の主。

 絶対主。

 箱庭のような空と草むら、それから点在するこんもりとした木々。
 まるで童話の世界のような、完全に閉じた世界。
 そこに佇む、真白いシャツのすらりとした立ち姿の青年。
 その姿に、嬉しくなって少しだけ笑み声を洩らして。

「むくろさま」

 呼んだ名に、ただ静かに美貌は微笑んで。
 走り寄り飛び込んだ少女を、その腕にやさしく抱いて。
「どうしました、凪?」
「…うれしいことが、あったの」
 ふふ、と。
 空気の揺らぎをそのまま笑みに変えたような。
 抱きしめられた腕の中、高い位置の首筋に頬を寄せて、くすぐったいように吐息で笑って。

「うれしかったの」





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